
理由なき都構想〜法定協ウォッチャーが見た議論の実態|フリージャーナリスト・幸田泉さん【後編】
法定協議会を取材し続けるフリージャーナリスト・幸田泉さんに、尾辻かな子衆議院議員がインタビュー、その後編です。
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※このインタビューは2018年4月7日(土)、立憲民主党大阪府連にて行いました。
ボトムアップの政治をどうつくるか
尾辻かな子衆院議員(以下、尾辻):
都構想の住民投票は、住民の力で自分たちの自治体を守った。それはひとつの住民自治の進化のひとつだったと思うんですが、どういうふうにボトムアップの政治を作るのか、市民の皆さんが政治とどう関わっていくのか、住民自治をどう実現していくのか、ということが課題だと思います。
幸田泉さん(以下、幸田):
住民自治をどうすべきかについては考えが及ばないんですが、15年5月の住民投票で言うと66%の人が投票に行っています。これはすごく高い投票率です。140万人ぐらいが投票したというのは、普段の選挙に行かなかった人達が立ち上がったというのがあると思います。
あの時約69万が賛成、約70万が反対。11年11月大阪市長選では、平松さんが52万、橋下さんが75万、橋下さんに入れた75万人の大半が、住民投票では賛成に入れている。市長選で橋下さんに入れたんやけれども、しばらくして「やっぱりあかんわ」と思った6万人ぐらいが反対に流れたとすると、プラス12、3万人ぐらいが市長選は棄権したけれど住民投票では「反対」を投じたことになります。
この人たちが大阪都構想を止めたんやとも言えます。こういう普段は眠っている人達がもっと市政に関わってほしいと思います。

2015年5月17日行われた住民投票。
※画像は大阪市Webサイトより。
賛成票は橋下市長の人気票
尾辻:
投票率66%というのは民主党が政権交代した時と同じぐらいの数字です。投票率が上がると今までとは違う結果が出やすい。当時、私もチラシを配っていましたが、投票日前の最後の2日間チラシの受け取りはすごかったです。
幸田:
選挙のチラシってあまり受け取られませんよね。
尾辻:
そうなんです。やっぱり体感でわかるんです。何か投票率は上がるんやろうなと思う反対でした。賛成派でも反対派でも、両方の言い分を聞いて決めようとしていると感じました。
幸田:
たぶん松井府知事、吉村市長は、70万人の反対より69万人の賛成という「前向きな捉え方」で、進めていこうとしています。この69万人がもう1回賛成したら、今度は行けるんじゃないかと。でもこれは勘違いで、これは橋下さんに入れられた75万票が基礎なんですよ。
尾辻:
つまり橋下さん個人に対する票であると。
幸田:
都構想の賛成票というのは橋下さんの人気票だった。もう1回住民票投票をやっても橋下さんがいないので、そんなに取れるわけがない。評価を誤っているのではないかと思います。
子どもの偏在が進む大阪市
尾辻:
幸田さんが、こうすればもっと大阪好きになる、住みやすくなるというのはありますか?
幸田:
私は今でも住みやすいと思ってるんですが、気になるのは、市内はタワーマンション建設のあおりで児童が増え、小学校の校舎を増築する一方で校庭が狭くなってしまう。これでは子どもたちがかわいそうです。適切に学校を建設していくべきだと。
一方で学校を潰すという動きがあります。府立高校は3年連続で、1人でも定員割れしたら廃校にすると言う。定員割れをしてるようなところは学力が高い進学校ではないから、高校の3年間というのは社会人としての基礎力を身に付けるすごく重要な期間なのに、廃校というのはおかしいと思います。
尾辻:
都市計画がうまくいっていませんね。小学校を潰して民間に売ってタワーマンションが建つ。当然小学校は足りなくなる。一方で市の南東部すごく少子化が進んでいて学校統廃合の話が出てくる。子どもの偏在が激しくなっています。
幸田:
南の方は減っていて中央区や北区、西区は増えています。
尾辻:
タワマンが建つ地域は同世代の人達が一気に増えてくるので子ども達も増える。それでは昔のニュータウンがオールドタウンになっていくのと同じ問題が生じるのではないか。
タワマンを建てるときは行政と協議するとか、重要事項説明の時にここはこの地域の小学校は満員かもしれないという事前説明をするとか、難しいところはあるとは思いますが、そういった対応も求められてくるかも知れません。

住民投票の投票用紙。大阪市が廃止される旨の記述がない。
国政と共通する「詭弁」
尾辻:
今、国政では数々の問題が生じていますが、維新政治との共通項を感じます。
幸田:
開いた口が塞がりませんね。情報を隠蔽し、国民を騙そうとする。これは維新政治も同じで、都構想で言うと、維新は大阪市がなくなるということを隠そうとしていました。
尾辻:
投票用紙にも、大阪市がなくなるとはどこにも書いていませんでした。
幸田:
住民投票前、橋下市長(当時)は「大阪市はなくなりません。大阪市役所がなくなるだけです」と一生懸命触れ回っていました。
尾辻:
詭弁ですよね。
幸田:
安倍政権もオスプレイの墜落を不時着と言ったり、自衛隊のPKO派遣の問題では戦闘を衝突と言ったり。あらゆるところで細かく言い換えている。国民を馬鹿にするなと怒りが込み上げてきます。
住民の声を聞いてほしい
尾辻:
最後に、立憲民主党に寄せる期待や意見などありましたら、お聞かせください。
幸田:
枝野さんが私たちに政治を取り戻そうと言った時に感激したひとりなんですが、大阪の今の政治は市民の声を聞いていません。
吉村市長は「自分たちが大都市制度改革の必要性を伝える努力が不足している、もっと伝えたら賛成と反対は逆転する」ということを議会で言っています。
そこに住民の声に耳を傾けるという姿勢は全く感じられません。ですから立憲民主党には、国民の声を聞いてほしいとすごく思います。
尾辻:
今「つながる本部」というものを作って、いろんな人とつながって、政策で解決できることは政策で、ネットワークで解決できることは人と人とを仲介することで答えを出していこうと取り組み始めています。
どんどんアウトリーチをしていきます。議員会館で待っているのではなく、自分たちからどんどん現場に行き話を聞く。自分達から積極的に話を聞きに行く姿勢が大事だと思っています。
(了)
幸田泉プロフィール:
1965年生まれ。元全国紙記者。2014年3月に退職後は、大阪を拠点にフリージャーナリストとして活動中。2015年9月、違法な部数水増しが常態化する新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル『小説 新聞社販売局』(講談社)を上梓。インターネットニュース「 ニュースソクラ 」コラムニスト。