やはり、二重行政はなかった②府大と市大

二重行政はなかった

今年2月22日、大阪府立大と大阪市立大の両大学の運営法人を、来年2019年4月に統合する関連議案が市会本会議において、大阪維新の会と公明党などの賛成多数で可決されました。

立憲民主党大阪府連「都構想」ポータル

大阪府立大学
※立憲民主党大阪府連撮影

府議会は同様の議案を昨年11月に可決済み(ただし「拙速に結論を求めるような進め方はあってはならない」とする付帯決議あり)で、新法人「公立大学法人大阪」が来春発足することになります。

府大と市大が両方あるのは全国的に異例ではない

道府県立の大学、市立あるいは複数の自治体で構成される一部事務組合が設立した大学。この両方あるのは、実は20道府県と結構多いのです(下記表参照)。

道府県立 市立・一部事務組合立
北海道 札幌医科大学 札幌市立大学
名寄市立大学
釧路公立大学
公立はこだて未来大学
青森県 青森県立保健大学 青森公立大学
山梨県 山梨県立大学 都留文科大学
長野県 長野県看護大学 長野大学
群馬県 群馬県立県民健康科学大学
群馬県立女子大学
高崎経済大学
前橋工科大学
神奈川県 神奈川県立保健福祉大学 横浜市立大学
新潟県 新潟県立大学
新潟県立看護大学
長岡造形大学
石川県 石川県立大学
石川県立看護大学
金沢美術工芸大学
福井県 福井県立大学 敦賀市立看護大学
岐阜県 岐阜県立看護大学 岐阜薬科大学
愛知県 愛知県立大学
愛知県立芸術大学
名古屋市立大学
京都府 京都府立大学
京都府立医科大学
京都市立芸術大学
福知山公立大学
大阪府 大阪府立大学 大阪市立大学
兵庫県 兵庫県立大学 神戸市看護大学
神戸市外国語大学
岡山県 岡山県立大学 新見公立大学
広島県 県立広島大学 広島市立大学
福山市立大学
尾道市立大学
山口県 山口県立大学 下関市立大学
山陽小野田市立山口東京理科大学
福岡県 福岡県立大学
福岡女子大学
九州歯科大学
北九州市立大学
宮崎県 宮崎県立看護大学 宮崎公立大学
沖縄県 沖縄県立芸術大学
沖縄県立看護大学
名桜大学

最近政令指定都市になった都市を除けば、むしろ政令指定都市のある道府県には道府県立大学と市立大学が両方あるのが普通です。

なかでも横浜市立大学、名古屋市立大学、北九州市立大学は、大阪市立大学と同様に文系・理系の学部を持った総合大学です。京都市立芸術大学は東京藝術大学と並ぶ、東西双璧の芸術大学です。特色を持った市立大学が複数ある道府県もあります。

別に大阪のように府立と市立の大学が両方あるのは異例ではありません。2018年度の入試倍率は府大7.3倍、市大4.4倍となっており、定員割れしているわけでもありません。

府大と市大が両方あるのは「二重行政」などでは全くなく、むしろそれぞれが特色ある大学を目指せばいいはずです。

中身の全くない統合のための基本構想

吉村洋文市長は森ノ宮のキャンパス開設など「構想」を語っていますが、はたして両大学の統合に意味はあるのでしょうか?

2015年2月に両大学が公表した「「新・公立大学」大阪モデル(基本構想) 」を見てみましょう。

例えば、ロボットに強い学科を持つ大学と福祉に強い学科を持つ大学が統合すれば、介護ロボットの開発ができるかもしれません(もっとも、必ずしも大学の統合が必要なわけではなく、共同研究で十分な場合が多いでしょう)。

しかし基本構想を見る限り、統合によって「シナジー効果(相乗効果)」を生むとされているだけで、具体的にどんな効果があるのかは全く記載されていません。

また、統合によって学生数・教員数が「公立大学では突出した規模」になるとされていますが、大学の規模と研究・教育水準とは無関係で、東京大学より学生数・教員数が多い大学は日本にたくさんあります。

基本構想では「グローバル研究」「異分野融合研究」「イノベーション創出」など、全国どこの大学でも目指している言葉が躍っているだけ。

府立農学校や大阪社会事業短期大学などのルーツを持つ府大と、東京商科大学(現一橋大学)、神戸商業大学(現神戸大学)と並び、「三商大」と称された伝統を持つ市大が統合する効果については、全く考えられていないのです。

現在両大学がどのような研究分野で秀でており、どのようなリソースを有しているのかすらも記載されていません。それぞれの伝統と強みを考えずに、規模が大きくなることのみをもって合併する大学なんてあるのでしょうか。

これは「大阪モデル」などと言えるものではなく、若干字句や数値を入れ替えればどこの大学の「改革案」にもなるような代物です。

立憲民主党大阪府連「都構想」ポータル

大阪市立大学
※立憲民主党大阪府連撮影

大阪の誇るべき2大学がなくなろうとしている!

これまで松井一郎府知事と橋下徹元市長が設置した府市統合本部の方針に従って、府市両方にある施設や組織の統合が検討、強行されてきました。

その背景にあったのは、総じて「2つもいらない」「2つあるものは1つにできる」「1つにすれば無駄がなくなる」という単純な発想でした。

しかしそのような安直な発想で、それぞれに歴史と特色のある大阪の誇るべき2つの大学がなくなり、まったく戦略を持たない1つの大学が生まれようとしているです。

2019年には新法人が発足しますが、このような具体的なメリットが示されないままの大学の統合については白紙に戻すべきです。