
やはり、二重行政はなかった③研究所統合
安全・安心犠牲に民営化(独立行政法人化)、そして府市統合を強行
大阪維新の会は、大阪市立環境科学研究所(以下、環科研)と大阪府立公衆衛生研究所(以下、公衛研)を「二重行政のムダ」とやり玉に挙げ、市民や議会の反対の声を押し切って地方独立行政法人化による民営化を図るとともに、「大阪健康安全基盤研究所(以下、新研究所)」という新たな研究所に統合しました。
そもそもこの2つの研究所は感染症や食品の安全・安心にかかわる検査研究、水質や大気の汚染に関する検査などのために都道府県や政令市などに設置された「衛生研究所」といわれる研究施設です。
「健康危機管理」といって、中国産毒入り冷凍餃子事件や新型インフルエンザの発生など、市民・府民の生命、健康の安全を脅かす事件や事故が起こった際には、迅速な原因究明を行い、被害拡大を防止するのも重要な役割のひとつです。
食中毒や感染症などへの対応は一刻を争う場合が多く、それゆえ全国にある82箇所の衛生研究所はすべて都道府県や政令市によって公立公営で運営されています。
市民・府民の健康と環境を守るという使命を果たすために、環科研は大阪市の保健所などと協調しながら検査や研究を行う機関として、公衛研は府下にある保健所の指導的立場として、それぞれの行政ニーズに沿うように公立公営で運営され、発展してきました。
それが突然、スタイルの異なる市と府の研究所が統合され、独立行政法人化(民営化)されてしまったのです。
結局、環境分野は直営で「環科研センター」に
最初のつまずきは環科研の環境分野の取り扱いをめぐって起こりました。
環科研は衛生部門と環境分野が併設された研究所でした。分野が異なりますが、検査方法や分析機器などはお互いに応用が利くので、いろいろな危機事象に対して多彩な知識や技術を総動員し、速やかに対応することができました。
しかし、環境分野は衛生研究所には必ずしも必要なものではありません。
そこで維新の吉村洋文市長は統合する研究所に持っていくことのできない環科研の環境分野を、市にとって不要な機能であるとして廃止すると言い出しました。
当然、大阪市会で熾烈な反対意見に遭いましたが、市の衛生分野と公衛研を何が何でも統合させたいがために、急きょ「大阪市立環境科学研究センター」として直営で残すことにしたのです。
今でも環境科学研究センターは市政において重要な役割を果たしていることからすると、この段階で当初の統合案がいかにずさんであったかが露呈したといえます。
無理な統合で現場は大混乱
それでも吉村市長は統合を強行したため、現場は目下大混乱です。
新研究所は新庁舎が完成するまで、これまで通り元環科研(天王寺センター)と元公衛研(森之宮センター)とに分かれて運営されていますが、予算も天王寺センターの分は大阪市からの予算で、森之宮センターの分は大阪府の予算で賄われています。
そのため、事務部門は大阪市予算と大阪府予算を別々に取り扱う必要があり、事務量が大幅に増大しています。
もっと深刻なのが行政検査です。検査法を安易に変更できないので、大阪市分は天王寺センターで、大阪府分は森之宮センターで実施しています。
厚労省の通達により、検査項目によっては研究所ごとに分析機器や実験環境に応じたオリジナルの検査法の作成が義務づけられていて、そうした検査の代表例が食品の残留農薬です。農薬は何百種類もあるのでたくさんの検査法を準備します。
ひとつの検査法を確立するには大量の薬品と多くの研究員による月単位の作業がいりますが、機器や環境が変わるだけでも作り直しです。研究所が統合しても検査法まで変えるのが難しいのはこのためです。
しかし、いよいよ新庁舎を建てるとなれば検査法もひとつにしなくてはなりません。こうなると日常検査と新たな検査法の作成で、現場は大混乱するでしょう。
新庁舎も大問題!! かさむ移転費、揺れる研究所
当初、環科研と公衛研の施設は残して活用するとしていましたが、市会の議決が済むと半年後には手のひら返しで、府の施設の老朽化に伴い、新施設建設の方針が決定されました。
ところがこの新施設がまた問題山積。新施設は新設棟と既存棟(旧成人病センター)となりますが、既存棟はもともと化学分析を行う設備ではないため、改装などのために移転費が当初よりも相当膨らみそうです。
当初、約113億円と試算されていたものが、備品・機器新設などを含めなんと約164億円に膨れ上がっています。
また、分析機器は重量物であるので建物の強度や、近くを幹線道路が通っているので振動の問題が出てくるかもしれません。
市民不在のずさんな統合方針の決定により、今まさに数十億円もの市税がさらにつぎ込まれようとしているのです。
成果の強調がさらに現場と府民市民の健康と環境を追い詰めかねません
以上が、いわゆる「二重行政のムダの解消」の実態です。
今後は府、市、理事者側から府市統合のメリットや経費削減効果を演出しするために、過大な業務負担や業務統合が現場に押し付けられ、現場職員とともに市民・府民の健康と環境が割を食う事態が発生するかもしれません。