理由なき都構想〜法定協ウォッチャーが見た議論の実態|フリージャーナリスト・幸田泉さん【中編】

連続インタビュー

法定協議会を取材し続けるフリージャーナリスト・幸田泉さんに、尾辻かな子衆議院議員がインタビュー、その中編です。

前編はこちら。
ブログ「フリージャーナリスト幸田泉の取材日記」

※このインタビューは2018年4月7日(土)、立憲民主党大阪府連にて行いました。

橋下府政以来の「選挙で落とせばいい」

尾辻かな子衆院議員(以下、尾辻)
法定協議会以外、大阪市会も傍聴に行っているのですか?

幸田泉さん(以下、幸田)
大都市・税財政制度特別委員会 」というのがあります。法定協が開かれると大阪市がなくなるという重要な話ですので、この委員会が開かれて前の法定協で決まったことを話し合います。これを傍聴しています。

吉村市長は「自分に投票した59万人との約束を違えられない、だから僕は都構想を公約を守るためにするんだ」という説明をしています。けれども反対した70万人はどこかに行ったのか、自分に投票した59万人だけを見ています。

尾辻
恣意的に結果をフォーカスしているわけですね。その委員会の議論をどう思われますか?

幸田
選挙の結果をすごく拡大解釈して、我田引水しています。「気に入らんかったら選挙で落としたらいいじゃないか」と。

これは橋下さんも言っていたことで、大阪市廃止、特別区にしたら区長が公選制になって自分らでいい区長を選んだらいいし、選挙で落とせばいいということで、選挙というものをテコにすべての論理を組み立てていく。

大阪維新の会は選挙に勝つために存在している政党という印象があります。

尾辻
何かをやりたくて集まっているのでなくて、選挙に勝つために集まっているような感じでしょうか。

幸田
維新の地方議員の、選挙の時の運動量はハンパではありません。若い議員が多いので、めちゃくちゃ動き回って、地を這うような選挙戦を展開します。そういう意味で選挙に強いのは確かです。

しかし今は、橋下さんが知事の頃から全体的な方針が変わっています。最初は大阪府の財政が悪いと言ってのコストカッターでした。職員の給料を下げるとか、着工した槇尾川(まきおがわ)ダム建設を止める (※1) とか。

でも今は、カジノや万博など、ガバガバお金を使う大盤振る舞いになっています。

そういう意味では、維新に独自の成長戦略があるとしたら都構想だけ。中身は大阪市を廃止して府が市の中を触りやすいようにするという話で、これに成長戦略の包み紙をかぶせているということです。

尾辻
大都市制度を変える、単に行政の仕組みを変えるということが、なぜ成長になるのか。システム会社や印刷会社に一時的にお金が落ちるかもしれないけども、都市として権限がなくなってしまうということを考えると、成長戦略と呼べるのか疑問があります。

幸田
議会や法定協でも、完全に「絵に描いた餅」をどんどん説明しています。特別区にして大阪が発展するなどということはあり得ないと思うし、そのことは議会でも指摘されていますが、とにかく「今のままでは限界がある」というばかりの説明です。

立憲民主党大阪府連「都構想」ポータル・幸田泉さんインタビュー

尾辻議員「ダブル選に勝ったことが、都構想への民意を得たとは言えないはず」

威勢のいい言葉ばかり並ぶ議論

尾辻
それをしなければならない理由がないんですよね。法律で言うところの立法事実がない。

幸田
現状維持はダメなんです、変えましょうと言う。不思議な威勢のいいの言葉だけが並ぶ。

人口減少とか経済の長期低落傾向が大阪の抱える問題で、これを解決するためには地方自治の拡充や二重行政の解消が必要だと。今の大阪市と行政区24区のままでは限界がありますと。これでは意味がわかりません。

尾辻
具体的にどういう限界があるのか…。

幸田
それも説明がないし、解消すべき二重行政がいったいどこにあるのかもはっきりしない。法定協や議会での議論は、大都市制度改革の必然性がわからなくなるばかりです。

市長と府知事でお互いに協力し合って改革を進めてきた、松井・橋下体制の前の「府市合わせ(不幸せ)」と言われた時代に戻るんですか、と言うわけですが、本当に不幸せがあったのかも疑問に思います。

尾辻
右肩上がりの高度経済成長期には税収があって、同じような業務をしていた時代が確かにありました。でも今はなくなっている。

ニーズと供給の問題で、そのバランスがあまりにも供給側に傾いていたら問題ですが、「二重行政=悪」という図式はもう少し冷静に考え直すべきだと思います。

立憲民主党大阪府連「都構想」ポータル・幸田泉さんインタビュー

幸田さん「なぜ二重行政解消が必要なのか、具体的な説明がありません」

「二重行政=悪」なのか?

幸田
府立と市立で図書館が2つ、体育館が2つある。そのことを橋下さんはタウンミーティングでさかんに言っていました。

でも例えば、体育館にはものすごいニーズがあるわけです。いろんなスポーツ大会だったり大相撲だったり。利益を出しているわけだから、利益も2倍になる。そういうことも含めての二重行政なんですが、とにかく2つあると「二重行政=無駄」。これをなくせばお金がブクブク湧いてくるかのように言う。前回の住民投票前のタウンミーティングは、全てその論調で進んでいました。

尾辻
体育館であればスポーツ施設が安価に借りられ、スポーツイベントができる。みんなにとって良いことであって、1ヵ所しかなかったらそれだけ機会が減るわけでしょう。

幸田
役割分担もしているんですよね。府立は大相撲やプロレスの興行、市立は地元の人たちがよく利用しています。

尾辻
図書館は、府立は専門書が多く、市立の中央図書館は24区の地域図書館の中枢機能も果たしている。

不思議やなと思うんですけど、例えば東京の杉並区は図書館が10館以上あるんですね。区に1ヵ所じゃなくて、10ヵ所ぐらいあるんです。つまり身近に図書館がある。

図書館は公共の物で、お金がある人だけが本を読めるわけではなくて、市民であれば誰でも本という知的財産にアクセスできる場所です。だから図書館は無料で利用できる、たくさんあればあるほど便利。

1ヵ所で十分というのは、そういう考えの詰め方をしていないんです。

立憲民主党大阪府連「都構想」ポータル・幸田泉さんインタビュー

旧市立住吉市民病院。18年4月2日より、外来のみ受付の市立住之江診療所が開設。
※立憲民主党大阪府連撮影

幸田
維新の言う「改革」は大雑把で乱暴なんですね。市立住吉市民病院はその典型で、府立急性期・総合医療センターが2キロ先にあるから二重行政やと言うて、市民病院は潰されました。

しかし、中を見ていけば役割が全然違う。市民病院は急性期治療をするんじゃなくて、熱を出した子どもを診てもらう場所なんですね。

住民説明会でも吉村市長は、医療センターの方にはすごく高度な設備を導入するので、自分がどっちの病院に行きたいかって言ったら医療センターの方に行きたいです、などと言う。

市民からしたら「そんな高度な設備はいらんねん」と。地元で必要とされてきたのに、普通の車に乗りたいのに「高級外車がこっちにあるからこれに乗りや」と。

それでは用途が合わない。それをものすごく荒っぽく二重行政ということで潰してしまった。何のためにそんなことをするのかよくわからないんです。

思いつきがそのまま通ってしまう。すごく怖いなと。反対署名がどれだけ集まっても、後継の病院も誘致できなくても、止まらない。じゃあやっぱり病院を残しますと、市長の裁量でできると思うんです。でも決断ができない。

立憲民主党大阪府連「都構想」ポータル・幸田泉さんインタビュー

尾辻議員「赤字であろうが大事なものは公立病院が担う、ということがあまり理解されていません」

儲からないものを引き受けるのが公立

尾辻
橋下さんから引き継いだ市長さんだから、ということなんでしょうか。

私は、もともと病院で働いていたことがあって、南部地域のソーシャルワーカーをやっていました。

小児科と産婦人科は絶対に儲からないですよね。だから民間病院が手を上げてくれるかと言うと難しい。夜勤にも入ってもらわなあかんからお医者さんの確保からも難しい。いつ産まれるか分からないからベッドは空けておかないとだめ。で、儲からないんです。だからいろんな所で公立が担っている。

儲からないということで民間病院がやらなかったら、その地域は命を守るところがなくなってしまう。だから赤字であろうが、大事なものは公立病院が担う、そのことがいまひとつ理解されていないように感じます。

幸田
儲からないものを引き受けるのが公共です。警察も消防もお金儲けしていませんから。公共とは何かという考えがないままに、赤字部門をカットするやり方が持ち込まれています。

市民もあまり分からずに、地下鉄のトイレがきれいになったとか、私立高校の授業料が無償化されたとか、わかりやすいメリットだけに目を奪われて、代わりに病院が潰されていく。

怖い状況になっていると思います。


幸田泉プロフィール:
1965年生まれ。元全国紙記者。2014年3月に退職後は、大阪を拠点にフリージャーナリストとして活動中。2015年9月、違法な部数水増しが常態化する新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル『小説 新聞社販売局』(講談社)を上梓。インターネットニュース「 ニュースソクラ 」コラムニスト。

※1…槙尾川ダム(和泉市)は、府が2009年5月に契約し着工。橋下府知事(当時)による治水対策見直しによって、2011年2月に建設中止を決定。建設業者と結んでいた総額約31億円の契約を解除した。2013年9月、府は業者に対し契約解除に伴う違約金1億5,000万円を支払う方針を決めた。